インサイト

ツイートで刻まれる歴史 

History in the Tweeting

コロナ禍のツイートから読み解く7つのインサイトと、ビジネスに取り入れるためのヒント

2020年はパンデミックや様々な社会情勢の変化によって、世界中の人々に影響をおよぼした一年でした。この歴史的事態は、私たちの感情やこれからの暮らしにどのような方向転換をもたらすのでしょうか。Twitter上での会話データと英米での研究結果に基づく7つのインサイトと、日本における将来像およびビジネスに活用するためのヒントを有識者による分析とともにご紹介します。
 

耳の痛い事実

7つのインサイトに言及する前に、研究の過程で発見した6つの「耳の痛い事実」をご紹介します。これらは、研究の枠組みを作る上での土台となっている事実です。

  1. 私たちはわからない。 誰にもわからない - 未来の予測はただの憶測に過ぎず、誰にもわからない。あらゆる議論には反対意見があることを理解し、それを念頭に置いている。
  2. 行動の変化は、時間がかかり、 構造的で、複雑である - すべてが変化することを期待するのは妄想である。
  3. 新型コロナウイルスは無から生じたわけではない - すでに変化の予兆があった世界にコロナ禍は起こり、多くの点で圧力鍋のように変化を促すきっかけとして機能した。
  4. 新型コロナにまつわる ストーリーは1つではない。 75億のストーリーがある - 人々は新型コロナの影響を不均等に受けており、状況に対する反応も人それぞれである。
  5. 事態はいまだ刻々と変化している - 状況は日ごとに変化し続けており、現在進行形である。
  6. 誰も経験したことないが、震災などで耐性が多少ある(日本ならではの視点) - 日本はこれまで数多くの自然災害に見舞われてきたことから、コロナ禍に対しても多少の耐性があるのではないか。
     

新たに見える7つの行動と状況

先に述べた耳の痛い事実を前提に、ツイートデータから見えるコロナ禍における世界の変化を「新たに見える行動と状況」という7つのテーマに分類して考察。それぞれのテーマから企業やブランドコミュニケーションに活用できるヒントを探りました
 

1. 気を紛らわせる感情ツイート
英国の調査によると、ロックダウン(都市封鎖)によって人々はより感情的な表現が多くなったことが分かっています。Twitter上でもロックダウン中は感情を表す絵文字の使用が増加し、その種類も多岐に渡っていました。

Twitter マーケティング リサーチ結果


一方、日本ではもともと欧米に比べて感情を表現したツイートが多く見られる特徴があります。電通若者研究部の西井美保子氏によると、特に2020年はコロナによって卒業式や入学式といった人生の大きな節目の時間や青春を奪われたと感じている若者が多かったため、「失われた青春を取り戻したい」「その時の自分を思いを伝えたい」という気持ちからTwitter上で感情を表現しているケースが多いと分析しています。早稲田大学で認知科学などを研究している渡邊克巳氏は、Twitterには人々の感情や気持ちの変化がツイートに現れ、それが記録として残されているところがTwitterならではの価値だと話していました。

ツイートには感情を伴う表現が多いからこそ、言葉の背後にある文脈を読み解くことが重要であり、企業やブランドは世の中の空気(文脈)を読みつつ、言葉のトーンに配慮したコミュニケーションを行う必要があることを示唆しています。

Twitter マーケティング リサーチ結果


2. 新たなクリエイティビティ
コロナ禍によって、私たちは信じられないほどの想像力や創造性を目にしてきました。中には必要性に駆られて生まれたものもあれば、人々を楽しませたいという願望から生まれたものもあるでしょう。理由が何であれ、この未曾有の事態の中で、私たちは新たなクリエイティビティが爆発するようにあふれ出す様子を目の当たりにしました。

2020年はステイホームによる巣篭もりやテレワークの拡大に伴って新しい習慣(例: 動植物を育てる、ビデオ会議のツールの使い方を身につけるなど)が世界的にたくさん芽生えた一方で、定着せずに廃れてしまった習慣(例: オンライン飲み会)もありました。博報堂生活総合研究所の酒井崇匡氏は、必要に迫られて始めた取り組みや習慣(Must)と、本当にしたいという意識(Wantsの種)があって始めたことの違いが、将来その習慣が定着するか否かに関わると話しています。

新しい習慣が定着するかどうかは別として、これからは新たに試すこと自体の価値が高まり、多くのことを体験したり、試しに何かをやってみたりといったことがポジティブに捉えられるようになるのではという意見(渡邊氏)もありました。ビジネスにおいては、新たに生まれた試みやクリエイティビティが広く受け入れられやすい環境や表現手法を用意しておくと将来に向けた可能性が広がるでしょう。

Twitter マーケティング リサーチ結果


3. 深まるコミュニティの絆

パンデミックによって私たちは物理的距離をおくことを余儀なくされましたが、その反面、親しい人同士のつながりやコミュニティの絆を大事にしようという意識が芽生えました。Twitter上でも、世界中で感謝を示すツイートが増えたり、コミュニティに関するキーワードが多く使われたりという傾向がみられました。

Twitter マーケティング リサーチ結果

人と人との関わり方が変化しつつある中で、改めて家族や地域でのつながりを大切にしたいと思う人々が増えてきています(酒井氏)。ビジネスにおいては、今まで以上に企業市民としてコミュニティと関わっていくことが重要で、地域に根差した活動や思いやりのある行いをすることが大切といえるのではないでしょうか。

Twitter マーケティング リサーチ結果


4. もう一つのエピデミック

メンタルヘルスは、もう一つのエピデミックです。その影響は、新型コロナウイルスによるパンデミックよりも長期化すると考えられています。働き方が変わり、多くの人々がワークライフバランスの重要性を感じていることなどからも、メンタルヘルスに対する意識は高まっているといえるでしょう。

Twitter マーケティング リサーチ結果

今後の私たちの生活への影響は不透明なので、企業やブランドにとっても精神的なゆとりを大切にしながら、他者に配慮した行動が求められているのではないでしょうか。

Twitter マーケティング リサーチ結果


5. とっ散らかる倫理観

コロナ禍によって、私たちがこれまで持っていた倫理観は大きく変わりました。正解のない考えや価値観がたくさん生まれる中で、これまで以上に「どのような考えで行動しているのか」という本質=スタンスがより問われているのではないでしょうか(西井氏)。

これは個人だけでなく企業にとっても当てはまるため、企業がメッセージを発信する際にもぶれずにスタンスを持って意思表明をし、きちんと説明責任を果たすことがますます重要になってくるでしょう。

Twitter マーケティング リサーチ結果


6. 離れていてもつながっている

物理的な距離が離れる一方で、テクノロジーのおかげで社会的なつながりを求める傾向はこれまで以上に加速し、実際にネット通販やSNSなどのオンラインサービスの利用も増えています。デジタル化が進むにつれてリアルに対する価値が高まっており、「若年層を中心にリアルな場への欲求はコロナ禍の外出自粛によってより強固になっている」という指摘があります*。

また、テクノロジーは完全ではないため、それを利用する私たちの間では不完全性に対する許容度が上がっているという考えもあります(渡邊氏)。テクノロジーの取り入れ方が定着し、新たなつながり方が生まれてくる中で、私たちはどのような形で人と人とのつながりを作るべきか、リアルとオンライン双方で考える必要があると言えるでしょう。

* 出典:電通若者研究部調査レポート「withコロナ時代の若者意識-コロナは若者にどう影響を与えたか-」(2020年6月調査)

Twitter マーケティング リサーチ結果


7. ゆっくりを受け入れる

ステイホームによって、多くの人々の生活が急にスローダウン(低速化)することになりました。これは否応なしであり、予期せぬことでもありましたが、多くの人がスローな生活ペースに慣れることを肯定的に受け止め、今後も「低速車線」に留まりたいとツイートしています。コロナ禍に若者の間でラジオや音声メディアの「ながら聴き」が流行したのも、生活の質や豊かさを求めている表れであるという分析もあります(西井氏)。「ゆっくりすること=スローダウン」をポジティブに捉える人が増えてる中で、企業にとっても、スローダウンをどのようにビジネスに活用できるか検討してみるとよいかもしれません。

Twitter マーケティング リサーチ結果


終わりに

未来は誰にも分からず不確実なものですが、逆に考えるとそれはチャンスが広がっていることでもあります。個人も企業も多くの場面で見直しや再定義を行い、どのようにして前進するべきかを決めるための稀有な瞬間なのです。

私たちはこれまで数多くの暗い出来事を経験してきました。しかし、中には陽気で希望に満ちた瞬間もあり、より明るく思いやりのある未来の可能性も秘めています。今こそ、個人も企業もチャンスを掴み、人と人をつなぎながら周りの世界に影響を与える新たなより良い方法を見つける時ではないでしょうか。Twitterで繰り広げられる会話が、それを見つける一つのヒントとなるでしょう。

February 16, 2021
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